眠れない夜×触れる/宮侑
布団に潜り込んでからいくばくかの時間が過ぎた。
身体は気怠さを感じているのに、どうしてかぱちりと目が開いてしまう。ベッドに入る前に垂らしたアロマオイルが微かに香る。よく眠れると評判だったはずのそれは、私には効果はなかったようだ。
「……ねえ、起きてる?」
隣で眠る大きな背中に問いかけてみる。同じ頃、おやすみと声をかけた恋人はもう夢の中なのかもしれない。
返事のない背中にそそそと近づいてみると、自分以外の温もりを感じる。ゆっくりと上下する背中に触れると、小さく一定のリズムを刻む心臓の鼓動が心地よく響いた。その温もりが欲しくて、もう少しだけ、とそっと身を寄せた。
「……何してんねん」
「あ、起きた?」
「起きるわ」
「侑の心臓の音聴いてた」
背中越しに声をかけると彼はごろっと勢いよくこちらに寝返った。
「ごめん、起こしちゃって」
「別に、まだ眠っとらんかったし」
そうは言うが、本当は眠っていたか、おそらく眠りに入る途中だったのだろう。欠伸を噛み殺して、彼は重そうな瞼を持ち上げた。
私が眠れない、と言うと彼の大きな手が子どもを落ち着かせるときのように、私の背中にゆっくりポンポンと触れた。
「なにこれ?」
「寝かしつけや」
「子どもにやるやつじゃん」
「大人にも効果あるらしいで」
彼の言う通り、この一定のリズムが意外と催眠効果があるらしい。このまま瞼を閉じれば眠れそうだと思った。
「……おーい。変なところ触ってますけど?」
「ん〜〜」
「寝かしつけてくれるんじゃなかったの?」
パジャマの裾を探すように動く彼の手をぺちんとはたくと冗談やんか、と彼は笑った。
私は彼の胸の中に潜り込んで、ぴたりと彼の胸に耳を当てた。とくん、とくんと流れる血液の音が響いた。
「私これで眠れそう」
「変なやつやな……」
呆れたようにそう言った彼の心臓の音がさっきよりも少しだけ速く聴こえたのは、私の胸の中にしまっておく。
20200930