恋せよ女の子


 太陽の影響を受けない海中は朝も夜もない。地上では太陽が昇り始めた頃だろうか。窓から見える景色はいつもと変わらない、暗い海の色だった。
 温もりの残る布団が名残惜しい。起き抜けのぼやけた頭を振り、は身を起こした。
 朝の雑用をひとしきり終えて食堂に向かうと、べポを見つけた。ばっと両手を広げると同じようにべポも大きく腕を広げた。そこに招かれるようにして彼のお腹へ顔を埋める。つなぎ越しでもわかるふかふかの毛の感触が心地よくて、のお気に入りのひとつだった。
「相変わらず仲良しだな、お前ら」
 べポの次にやってきたペンギンがそばにあった椅子に腰かけながら笑った。
「ペンギンもやってもらいなよ、べポにハグ」
「俺らが朝からそれやってたらなんかアレだろ……」
「もったいない」
 こんなに気持ちいいのに。ねー。とはべポと顔を見合わせた。
「じゃあ私とは?」
 はい、とベポにやったのと同じように両手を広げると、ペンギンは眉を顰めた。
「いや、お前……俺とだと余計にこう、アレだろ……」
「アレって?」
「いいんだよ。そういうのは可愛い担当に任せておく」
「えー? それは私が可愛いってこと?」
 がニヤニヤしながら詰め寄ると、「そういうことでいいよ」とペンギンは手をひらひらとして軽くあしらって、その話を終わらせた。
 その後、続々と集まってきたクルーたちと朝食を食べながら次はどんな島だろうとか、何をしたいかという話で盛り上がる。栄えている街がいいとか美味しいものが食べたいとかクルーたちの願望は様々だった。そんな時、が言うことは決まって同じ台詞だった。
「今度の島はいい人いるかな〜」
 の言葉にクルーたちは互いに目配せをし、いい男なんてこの船にいくらでもいるだろうと笑い飛ばす。
「そういうことじゃなくて、恋愛ができるような“いい人”!」
 ずっと海の上。新しい冒険だらけの航海は楽しい。けれど、は良いお年頃だった。恋がしたい。いつか本で読んだような、胸がいっぱいになるような本当の恋というものをしてみたかった。
「でもよ、。そこらの島の男と付き合ってどうするんだ?」
 誰かが言う。例えばいい出会いがあったとして、その人と一緒になるには船を降りて島に残るか、相手を船に乗せるかのどちらかになるだろう。
 はあ、と口を開いて、それは考えてなかったと呟いた。
「……キャプテンは何ていうかな?」
 シンとした食堂で、誰かの声がした。
「次の島が見えたぞ!」
 船はゆっくりと浮上し、窓からは久しぶりに太陽の光が差し込んだ。

 今回上陸する島は、色とりどりの花が咲く春島だった。春島の春。ちょうど一番の観光シーズンで、中心街はとても賑わっていた。空は青く澄み、小鳥たちが歌うように鳴いていた。
 島民たちは、大変な額の賞金首である我らが船長率いる海賊団も快く迎えてくれた。ここでは無意味な争いもなく、皆平和に暮らしていた。
 買い出し係に任命されたは、船長のローとクルーたちと街を歩く。次の航海に必要な日用品や食糧を買い込んで、あとはそれぞれ個人的な買い物のため分かれていく。
 一通り街を歩いて、ローを足を止めたのは小さな書店だった。ローは海賊に似合わず読書好きだった。船内には医学書も多数あり、それ以外の専門書やには難しくてわからない本もたくさん揃えられている。これは時間がかかるだろうと思い、はローに一声かけて独りで街を散策することにした。
 街のいたるところに綺麗に植えられた色とりどりの草花を見ながら、は胸をときめかせた。街を歩くだけで楽しい。カフェやレストランから流れてくる音楽は陽気で、人々は皆笑顔を浮かべている。春はの好きな季節だった。広大な海の上にいると季節感覚はあまりないけれど、が読んだどの物語でも春は恋の季節とされていた。
 ここには恋の予感がある。人目なんて気にせず、スキップをして歩きたい気分だった。
「ねえ、」
 足を止めて声のした方を不可得れば、見知らぬ青年がいた。
「……私?」
「うん、君。一人なの?」
「うん」
 青年の笑顔は爽やかで、この島に良く似合う風貌だった。少しの警戒心と、期待がの胸を駆け巡る。
「この島はじめてなの?」
「うん」
「いい島でしょ。地元なんだ。案内しようか?」
 青年は柔らかに微笑みかけた。島の雰囲気にのまれていたの心臓はもう勝手に早打っていた。恋とは知らず知らずのうちに始まるものだと、なにかの本で読んだことがあった。もしかして、これが……!
 ごく自然に出された手をが凝視する。恐る恐るその手を取ろうとした時、聞き覚えのある低い声が響いた。
「”ROOM”」
 あ、と思った時には目の前に青年はおらず、代わりに目つきの悪い、いかにもゴロツキだと思われる風貌の彼。
「……何してんだお前は」
「……今の、恋だったかもしれないじゃないですか」
「バカか」
 膨れるにローは呆れたように言い放った。ずっと遠いところにいた青年に一瞥をくれた。親切に近づいて、物盗りをしたり攫って人間屋に売るよくある手口だという。こんな陽気な島でまさか、とは閉口する。
「今までの航海を忘れたのか」
 ローの言葉に、は肩を震わせた。恋がしたいという気持ちだけが先走り、警戒を怠っていた。悪人が皆悪人面をしているわけでもない。これまでの航海や訪れた数々の島でも身に覚えがあることだった。海賊団とはいえ、無防備な状態では歯が立たないことだってある。
 それからの単独行動は許されず、常にローがついて回ることになった。何度気を付けるからと言っても信用されなかった。
 ローについていくつかの書店を周り、彼はその中から気に入ったものを何冊か購入していた。一緒に入店したが適当に取った本は、何が書かれているのかすらちっともわからなかった。
「キャプテーン。お茶しましょう」
 歩き疲れたが、近くのカフェを指して声をかける。小洒落た外観が、いかにも彼女が好きそうな店だった。
 ローは何も言わず、について向かう。
「カップル一組様でーす!」
 お好きな席にどうぞと言われ花壇のよく見えるテラス席に腰かけると、店員が奥に向かって声をかけた。ガタッと椅子が鳴る。わざわざ店の奥に向かって否定するわけにもいかず、は取り繕ってヘタクソな笑みを浮かべる。反対に、ローは涼しい顏をしてそんなことは気にも留めていないようだった。
 の前には輝くような大きなイチゴの乗ったショートケーキ。ローは静かにコーヒーを飲んでいた。は複雑な気持ちだった。私なんかがキャプテンの恋人に間違われて申し訳ない。そんなことを思いながら、ケーキを口に入れる。意外とあっさりとした生クリームに、イチゴの甘味がマッチして至高のショートケーキだった。一口ずつ口にするたびにローへの申し訳なさは、美味しさと反比例してなくなっていった。
「キャプテンも食べたらよかったのに。死ぬほど美味しかったですよ、あのケーキ」
「そりゃあよかった」
 満腹満足で店を出て、船に戻る道を行く。美味しいケーキを食べてご機嫌なは、人目も憚らずスキップをしていた。一人では気恥ずかしかったけれど、キャプテンがいるならいいか。はそんな気持ちだった。くるり、とミュージカルのように回転してみれば、後ろを歩くローが唖然とした顔をしたのが見えた。
 通りすがりの老夫婦が笑顔で拍手をして、それを見て余計に上機嫌になる。また調子に乗るとキャプテンに怒られるかな、と頭を過った瞬間。
 くるりと回った足が道の縁に引っかかり、の身体は傾いた。
「あ、」
 その先は小川だった。覗いた先に小さな魚が泳いでいるのを見つけた。落ちたら少なからず下半身はずぶ濡れになるだろう。
 ダメだ、と思ってぎゅっと目を瞑る。傾いた身体が止まって、引き寄せられる。
 能力を使ってその辺の小石と交換してくれたらいいのに、ローはそれをしなかった。
「何やってんだお前……」
 ローは、今日何度目かわからない呆れた顔を見せた。
 お礼の一つでも言わねばと思うのに、の意識は握られた手にあった。柔らかく、温かい。間違いなく男女の差はあって、よりも幾分も大きく骨張った手だった。血の通った人間なのだから当たり前だ。世界から死の外科医などと恐れられている海賊であっても、ひとの温もりは変わらない。それなのに、何故だかは意外なことのように驚いた。ぱっと手を振り解いて、距離を取る。ローは一瞬怪訝な顔をしただけで、の行動には言及しなかった。
「……キャプテンって、手温かかったんですね。心が冷たいからですか?」
「……お前は俺をなんだと思ってる」
 ローの鋭い視線を受けて、はへらりと笑って誤魔化した。
 心臓がざわざわする。それは海軍含む敵に出会った時とも、新しい島を見つけた時とも違うものだった。

ー。恋は見つかった?」
 船に戻ると、ベポがおかえりと両手を広げる。その胸に飛び込んで、束の間の癒しの時間。
「奴隷にされかけてた」
 が口を開くより先に、ローが答える。
「え!?」
 ベポが驚いて、は慌てて弁明する。
「されてないよ!」
「どうだか」
「そのあとは気をつけてましたよ!」
「次があって良かったな」
 嫌味たらしく言って、ローは自室へと戻っていった。
、買い出し楽しくなかったの?」
「楽しかったよ! 楽しかったけど……」
 は口籠る。街を歩いて周るのは楽しかった。欲しいものも買えた。美味しいケーキも食べた。それなのに、胸が落ち着かない。何かが胸につかえたような、そんな違和感がずっと残っていた。

 別の日。
 は、見張り番を任されていた。ウミネコの鳴く声を聞きながら、甲板に置かれたデッキチェアでうとうとと舟をこいでいた。この日も、太陽は柔らかな春の光を降り注いで温かな空気が流れていた。
「おい」
 落ちた影と掛けられた声に、ハッと目を覚ますといつも通りの悪人顔をしたローがいた。
 せっかく気持ちよく寝ていたのに。が口を尖らすと、ローは一つの紙包みをに手渡した。
「なんですか?」
「土産だ」
「あ!」
 包みを開けると中にはあのカフェの、イチゴのタルトが入っていた。
「ケーキ! でも、キャプテン。どうして」
「どうもしねェが……。いらねェなら、」
「あ、待って! いります! 食べます!」
 ローの手が伸びて、は慌ててそれを彼から遠ざけた。ショートケーキは絶品だった。きっと、このタルトも美味しいに決まっている。
 並べられた椅子に腰掛けたローが、をじっと見つめていた。
「……半分こします?」
「いや、いい……」
 そのまま椅子に座って、ローは持っていた医学書を広げた。はタルトを口に運びながら、横目でローを盗み見る。
 あのカフェに一人で行ったんだろうか。想像すると、勝手に口元が緩んでいた。ニヤニヤした顏をローに気づかれないようにキュッと口元を引き締めて、はタルトの美味しさに舌鼓を打った。
 甘いものを食べて血糖値を上げた身体は睡眠を欲し、午後の光の心地よさにはいつの間にか眠ってしまっていた。
 肩を揺さぶられて目を覚ますと、目の前にローの顔がありは声を上げた。
「うるせェ……!」
「だ、だって、キャプテンが近いから……すみません……」
 ばくばくと鳴る心臓を押さえつけるようにして胸に手を置き、は息を整えた。
 寝起きにローの顔は身体に悪い。よだれの跡を袖で拭って、は身体を起こした。太陽は沈み、空は暗くなりかけていた。
 皆のもとに行くと、なにやら宴が始まっておりほとんどのクルーはすでに出来上がっていた。
ー! やっと起きたのか!」
「うん、寝ちゃってた」
 おやつにタルトを食べたとはいえお腹は空く。並ぶ料理を前に胃が鳴いた。空いている席に座ると、の後をのろのろとついてきたローもその隣に腰をかけた。
「…………」
「……何だ」
「何でそこに座るんですか」
「空いてた席に座っちゃいけねェのか」
「……別にいいですけど」
 とローを含めて、何度目かの乾杯の音頭がとられる。「キャプテン聞いて!」とわらわらと寄ってくるクルーに囲まれて、ローは静かに笑みを浮かべながら彼らの話を聞いていた。その様子を気にしながら、はちびちびとご飯を食べ進める。
 いい具合に酔いの回ったクルーたちと、歌を歌ったり島での戦利品を見せ合いをする。もう少しすればログがたまる。次の航海までに、皆それぞれ島を満喫している様子だった。
 いつの間にか隣に来ていたべポには身を預けていた。その様子を見た酔っぱらったシャチがジョッキを向けて声をかけた。
のそれ、ベポにだけなのか?」
 べポとのハグは恒例のもので、
「ペンギンに可愛いもの同士の特権って言われた」
 ほろ酔い気分のは、反対側に座るイッカクとぎゅっとハグをする。
「でもみんな大好きだから、みんなにして回りたいくらいだよ」
 はこのクルーの皆が好きだ。ベポはミンク族だから特別気持ちよくて大好きだけど、ペンギンだってシャチにだって皆にハグして周りたいくらいだった。
「……じゃあキャプテンは?」
「え?」
「みんなにできるんだろ?」
 ちらり、とは離れたところでジョッキに口をつけるローを見る。ドッと心臓が鳴った。
「む、無理! キャプテンは無理!」
 思わず大きく出た声にハッとしたけれど、その声に顏を上げたローと視線が合い、は思わず叫んだ。
「キャプテンは可愛くないからダメ!」
「は?」
 ローの低い声が耳に届いたと同時に、「もう寝る!」とは部屋を飛び出した。
 一人部屋に戻って、電気もつけずにシーツに包まった。アルコールのせいか、シーツの中は熱が篭る。触れた感触を思い出した。ローのことを考えると胸がぎゅっと苦しい。長い期間一緒に航海をしてきて、今までこんなこと一度だってなかったのに。頭が混乱して、はぎゅっと目を瞑った。
 宴会が終わってイッカクが戻ってきてからもはベッドの塊と化したままで、心臓の音がうるさくてほとんど眠れないまま夜を過ごした。
 それから、の様子は誰から見てもおかしかった。
 皆で並んで食べる食事も、あからさまにローの隣は避けた。クルーたちと談笑している場にローが姿を見せれば不自然にどこかへ行く。ローが話しかけると、いつも通りに話してはいるが、明らかに目が泳いでいる。
 どうしたどうしたとクルーがに声をかけても、も「わからない……」と頭を抱えるだけだった。

 ログもたまり、翌日には海に出ることになった。最後の散策だと、は特に目的もなく一人で街をぶらぶらと歩いていた。ローと行ったカフェの前を通り、カップルと呼ばれたことを思い出すと自然と顏を熱を持った。
 ここ数日の自分がおかしくて、何かの病気にでもかかってしまったのかもしれないと思った。クルーにも心配されている。次の航海に入るまでに、医者であるローに相談した方がいいのかもしれない。いちクルーとしてそうすべきなのに、なぜかローにこんな状態の自分のことを話すことは気が引けた。
 ため息を吐きながら街を歩いていると、目の前からちょうど想像していた人物が現れる。ローだった。遠目からでもわかる。普段から機嫌は悪そうだけれど、たぶん本当に機嫌が悪いのだろう。街へ出るなら誰か連れていけと言われていたのに、それを無視したせいかもしれない。は誤魔化すようにへらりと笑って、ローに手を振った。
「一人で出歩くなと言ったはずだ」
「ただの散歩ですよ」
「そうやって変な奴に捕まってたのはどこのどいつだ」
「捕まってないです!」
 あの時はローの能力で助けられたわけだけれど、今度のはちゃんと弁えている。知らない人にはついていかないことを誓って船を出てきたのだ。
「……帰るぞ」
 ローに言われてはついていく他なかった。猫背気味の後ろ姿を追って船に戻ると、ローはを部屋に呼んだ。
「……なんで?」
「なんでもだ。来い」
 有無を言わさない様子のローに、はしぶしぶローの部屋を訪れた。
 部屋の壁には本が並んでいた。ローの部屋に入るのは初めてだった。医務室や手術室も彼の部屋のようなものだけれど、何度か出入りしている医務室とは違ってそこは彼だけの空間だった。心臓に悪い。
「……。最近様子がおかしいが、何かねェのか?」
「な、何かというと?」
 椅子に腰かけたローを見下ろしながら、は立ち尽くしたまましどろもどろと視線を動かした。
「体調はいたって正常であります!」
「嘘をつくな」
 一息に口に出た誤魔化しも、ローには効かなかった。クルーが気づいていることに、医者であるローが気づかないわけがない。
 威圧的なローに促されて、はおずおずと口を開く。
「……実は最近、胸が苦しくて……えと、あとは動悸? それにいろいろ考えて眠れないんです……」
 誤魔化しても仕方がない。話しながらは自分の手が小さく震えているのに気が付いた。指の先の血管すら心臓になってしまったのかと思うくらい、ドキドキと脈打って自然と瞼まで熱くなる。重症だ。よく効く薬でもあればいいけれど、ローはじっとを見たまま何も言わなかった。
「まずい病気ですか……?」
「いや、いたって健康だ」
「……は?」
 は眉を寄せる。
「お前、それがどういうことかわかってねェのか」
 の頭上にはハテナがいくつも浮かんだ。こんなにおかしいのに、ローは正常だという。この島に来てからおかしくなったのだ。島の風土病とか何か変な病気をもらったのだとかそういうことかと思っていた。
「……今は」
「え?」
「今はどうなんだ……」
 ローがの手を取った。それは医者が脈を測るときのそれのようだった。の手首をなぞり、手のひらを重ねる。広くない室内でが息を呑むのがわかった。
「……えっと」
 喉の奥が震えて、上手く声が出ない。早く治してほしいのに、どうしてこんなことをするんだと涙が出そうだった。
「お前はおれに惚れてる」
「……え?」
「違うのか」
「え!?」
 重ねられた手が自然との手を握り、咄嗟に手を引こうとしたけれどローの力には勝てなかった。びくともしないそれとローの顔を交互に見やるの顏は熱かった。
「私が、キャプテンを好き……?」
 ローは何も言わず、微かに口端を緩めた。
 恋とは、こんなに唐突に始まるものだったのだろうか。ローとは長い付き合いで、これまでこんな風に考えたことなんてなかった。ただ、一度意識してしまうと彼のことが頭から離れないのも事実だった。
「きゃ、キャプテンは……?」
 これが恋だというなら、相手はどうだろうか。恋は一人じゃできない。自分に好きな人ができて、相手も自分を好きでいてもらわなければ成就しない。の読んだ本ではそうだった。
 恐る恐るローに視線を向けると、海賊らしい悪い顏で口角を引き上げた。
「どう思う?」
「わかんないですよ、そんなの……」
 自分だって今まさに気づいたのだ。ローがをどう思っているかなど、に想像できるわけがなかった。
「考えろ」
「ひどい! ふつうは男の人から言ってくれるもんじゃないんですか!」
「うるせェ」
「横暴だ!」
 女の子の心を持て遊ぶなんてひどい、とが非難すると、ローは涼し気に口を開く。
「当たり前だ。俺を誰だと思ってる」
 そう言われると、ぐうの音も出ない。海賊が横暴で何が悪い。
「……キャプテン、本当に私のこと好きなんですか?」
 がおそるおそる確認すると、意地の悪い笑みを浮かべた男がいた。
 なんだか、とんでもない人に恋をしてしまったらしい。


20221205
更新しそびれていたお話