合コンに来ないかと誘われて、ちょうど部活もオフだったこともあり二つ返事で了承した。
みんなで遊ぶのも好きだし、相手が名の知れた女子高の女の子たちだというから男子陣の中でそれはもう盛り上がってしまうのも当然のことだった。
何度かグループ内で遊びに行って、その中で可愛いなと思った女の子と二人で遊ぶようになった。雰囲気に呑まれて手を出して、やらかしたと後悔したが意外にも相手も平然としているようだから、まあいいかと曖昧な状態を続けてしまっている。いつかちゃんと言わなければ、と思ってはいるもののなんとなくタイミングを逃し続けていた。
それに、自身がはっきりとした関係を望んでいないとしたら。そんなことも考える。
以前にも友人を介しての性格や特別な相手はいないらしいという現状は聞いたことはあるが、それを考えるとこんな今みたいな不純異性交遊をするようには思えない。
との関係をどうしたものかと考え悩むのがここ最近のクセになってしまっていた。
「あれ、マッキーまたため息じゃん」
部室で制服から練習着のTシャツに着替えていると、ベンチにスクールバッグを投げるように置いた及川に声をかけられた。
幸せ逃げるよ〜、とご機嫌に鼻唄を歌いながら、及川は自身のロッカーを開けた。
「……いいよなあ、及川は。悩みなさそうで」
「失礼だな! あるよ! 何、マッキーどうしたの」
「あー……。や、なんでもない」
「ちょっと、気になるじゃん」
チームカラーのTシャツを首まですっぽりといれたところで及川はこちらを向いて動きを止めた。
その間にも続々と入ってくる部員たちの声に適当に返事をする。
男というものは、自分の恋愛事の話をペラペラと他人に話すことはほとんどない。羞恥心か格好つけか、きっとどちらもある。
横にいる及川がしつこくせき立てるので、アーとかエーとか濁していた口から、実はな、と自身の現状を伝える言葉が出てくるのは時間の問題だった。
「――ていうかそれセフレじゃん」
「やっぱり?」
「向こうにもそう思われてるでしょ」
わかりきったことを指摘して大袈裟にため息を吐く及川に同じように息を吐いた。
「わかってんだけどさ」
「好きなの?」
「まあ……」
「あーあ、その子かわいそ」
及川は大袈裟に肩を上げて頭を振る。
そんな風に言われなくてもわかってるから悩んで考え込んでいるのだ。追い討ちをかけるように、背中をバンバンと叩かれる。
「男ならはっきりしなよ、マッキー!」
「及川おまっ、声でけえわ!」
きっとわざとだろう。今まで声をひそめていたというのに、部室中に響くように及川は声をあげた。なんだなんだと、雑談をしながら着替えをしている部員たちの視線がまとめてこちらに向く。何か言い訳を、と考える前に及川が「マッキーがヘタレてるだけ〜」と周りに言って聞かせた。
「……及川覚えてろよ」
その呟きは届かなかったのか、聞こえてないふりをしているだけなのか。及川は来たときと同じように鼻唄を歌いながら部室を出ていった。
不思議そうな顔を浮かべる部員たちから「花巻さんおつかれっす」「まぁ、がんばれや」と口々に声をかけられて頭を抱えた。
「マッキー荒れてんねぇ」
「誰のせいだと思ってんだよ」
「え? 俺?」
自主練もそこそこに部活を切り上げて帰路につく。
及川のせいで、この部活中、何かあればヘタレだとかなんだと言われて散々だった。
シラを切る元凶の及川に軽く舌打ちを向けると、まぁまぁと肩を叩いた松川が「くわしく」といい笑顔を浮かべていた。及川の隣に並んで歩く岩泉も興味を隠しきれずにそわそわと視線を向けてくるから、結局及川にしたのと同じ話をもう一度する羽目になった。
「それはお前……、彼女に同情するわ」
「ね、ヘタレてんべ」
「わかってっから言わなくていーよ!」
「んなら早く言ってやれ」
「ハイハイ、わかってますよ!」
自分がいけないのだとわかっていても、周りにどやされるとうんざりする。
額に手を当ててため息をつく。顔をあげると松川と視線が合い、まだ何か? と威嚇的に見つめれば「なんでもない」と苦笑される。
「でもいいよなー。他校の彼女とか」
「は?」
「校門前で待ち合わせしたい」
「あ、いいね。俺は迎えに行きたいかなー」
「俺が及川の彼女だったら来てほしくない」
「何でだよ! 女の子たちは彼氏が学校に迎えに来るのが憧れのシチュレーションって言ってたんだけど」
「及川は無理」
「わかる」
「わかる」
「なんなのみんなして! 俺じゃなくてマッキーの話だからね!」
及川によって話の的を戻されて、うっと言葉を詰まらせる。及川たちに次に会ったら言います、と半ば強制的に約束をさせられてその日は解散となった。
練習メニューはいつもと変わらないのに、 一人になった帰路で何とも言えない疲労感がドッと身体を重くした。
ポケットから携帯を取り出して画面を表示させると、噂をすればからのメールが届いている。返信は必要ないような簡潔な内容。から届くメールの大半はこうだ。
やっぱり彼女は俺に気がないのではと考えてしまいそうになるが、チームメイトたちから「女の子の気持ちがわかってない!」とお叱りを受けたばかりだ。そういう考えはやめにする。
次いつ暇?とメールを送れば、数分もせずに返信が届く。
今度の日曜日、ちょうど部活もオフ。じゃあ決まり、ととんとん拍子に次の約束ができた。
*
待ち合わせの駅に向かえば、すでに彼女はそこにいた。
どこへ行くとか行きたいところについての話はせず、ただ会おうとそれだけ。一応デートのつもりなのだが、流行りの型のスカートとふんわりと毛先を巻いたの姿を見て、同じように考えてくれていることを願った。
「どこ行く?」
「どこ行きたい?」
「その言い方ずるいなあ」
「何すっかな〜。んー、どこでもいいなら、」
「――いいよ、ホテルで」
「え、」
近場で買い物か、少し離れるが水族館とか。デートで行きそうなところを思い浮かべていると、が先に口を開く。
おいちょっとまて。そう口にするより先に「貴大くんの行きたいところでいいよ」と手を引かれてしまう。
ここで引き止めて告白でもなんでもできたら良かったのかもしれない。それができない俺は及川のいう通り最高にヘタレている。考えの読めない表情を浮かべたの隣を歩きながら、そんな自分に呆れるしかなかった。
20160508